イタリア 万歳

イタリアの美味しい食卓を彩る食材は、
毎朝開かれる朝市メルカートで調達します!
(text & photo by 岩田砂和子)

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山積みのトマトやオレンジ、みずみずしいレタスやほうれん草。地中海の太陽をたっぷり浴びて育った色鮮やかな野菜や果物がぎっしりと積まれる朝市メルカートは、イタリア人の元気の素。ピチピチの魚介を並べる魚屋や、元の姿もあらわな子ウサギ肉や巨大な牛肉を吊るした肉屋、スパイス類の専門店から焼き立てのパンを切り売りにするパン屋まで。メルカートには、イタリアの食卓を飾るすべての食材たちが揃っています。

イタリアにも、スーパーマーケット(イタリア語では、スーペル・メルカートと発音)ももちろんありますが、食材仕入れの主流は昔も今もメルカート。小さな町では決まった曜日だけのこともありますが、ローマやフィレンツェなど大きな街では、街中のあちこちの広場で日曜日を除く毎日、早朝から午後1時ごろまで開かれます。産地直送の野菜はもとより、チーズや生ハム、オリーブオイルなど専門店が並ぶメルカートは、商品のクオリティも高く、店主のこだわり商品が見つかるのが魅力。なるべくメルカートを中心にお買い物をして、スーパーマーケットはサブ的に使うといった家庭が多いものです。

メルカートでは、9割9部の商品が量り売りスタイルをとっているため、慣れるまで、なかなか骨が折れるもの。だいたい1kg単位で値段が表示されているため、パック単位でお買い物ができるスーパーマーケットに慣れていると、「何グラム買えばいいのかしら?」と初歩的な疑問にぶちあたるから。スーパー中心の都会生活では、オレンジ1kgは何個分なのか、そんなこと考えて暮らしてないのが普通ではないですか?(ちなみにオレンジ1kgはだいたい4個分です。)

お肉やチーズやベーコン、生ハムなども全部計り売り。こちらの基本購入単位はエットEttoです。1etto(ウン・エット)は、100gのこと。単純に 200gなら2etto(ドゥエ・エット)かと思いきや複数形になると語尾が変わり、2etti(ドゥエ・エッティ)になったりするので混乱します。 150gなら、1etto e mezzo(ウン・エット・エ・メッヅォ)。500gになれば、5etti(チンクエ・エッティ)でもよろしいですが、これは、半キロと言う表現が一般的。メッゾ・キーロです。キリがないのでこの辺にしておきますが、まあ、数値の表現はともかく、ミートソースを4人分作りたいときに何エットの挽肉が必要なのか、スグわからないと買い物にもとまどうといったわけです。「カッチャトーラを作りたいんだけど、4人分なら鶏肉何グラムくらい?」と、質問をして適当に見繕ってもらうこともできますが、ある程度の予想がないと、恐ろしいほどの量を言われるまま買うことにもなりかねません。

メルカートでは、なるべくお馴染みになることも重要で、いち見さんには不親切極まりない八百屋も、何度も通って顔馴染みになると実の詰ったキャベツを選んでくれるようになったり、おまけしてくれたり。お肉屋さんでは、「和食にするから豚肉を極限まで薄く切って」などと細かいオーダーも聞いてくれるようになります。露骨なところがイタリアらしいともいえますが、郷に入っては郷に従え。店主と馴染みになり、掛け合い漫才レベルの会話ができるようになれば、いいお買い物ができるようになります。

「元気?」などと挨拶から初めて、メニューの相談したり、たまにはちょっと値切ったり。料理のグラム感覚を養われると共に、会話が重要なファクターになるメルカートは、時間もかかって面倒ではありますが、「うちの大事な肉は、気に入った客に美味しく食べてもらいたい。」とそんな店主のこだわりも感じられないではありません。美味しい食卓をクリエイトするためには、売り手と買い手、お互いの信用も大事なんだな。とそんな気にもさせるイタリアのメルカート文化なのです。

ワンポイントイタリア語講座

意味: ステーキ用牛肉を300グラムください!

お肉の塊からオーダー分だけ切り分けるイタリアのお肉屋さん。美味しい部分を切って欲しかったら、「Bella venata!(ベッラ・ヴェナータ!)意味:いい感じに脂身が混ざったところ」とビステッカの後に加えると、「お、このお客さんはお肉のことよくわかってるな。」とお肉屋さんの信用を勝ち取れること請け合いです 。