イタリア 万歳

イタリア人のこだわりは徹底してますが、
それは、やっぱり自分と家族のため?
(text & photo by 岩田砂和子)

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取材や普段の暮らしの中で、イタリア人の家庭にお邪魔する機会がしばしばありますが、お邪魔した先でいつも感じるのは、そのインテリアへのこだわり。例えばそれは、一見して有名ブランド家具で統一されているとか、いかにも高そうなアンティーク家具が並んでいるとか、そんな「わかりやすい」こだわりとはちょっと違います。色の配色や家具の配置、雑貨選びや飾り方に至るまで、住む人の個性満載で、そこに足を一歩踏み入れるだけで、「ああ、この人は、こういうのが好きなんだなぁ」と彼や彼女の顔が見えてしまう空間。しかも抜群に居心地がいい。いったいどれだけの時間と熱意をもってすれば、こんな空間に仕上がるのだろう?と感心させられることが多いのです。

実際、そのこだわりっぷりは尋常ではなく、以前、建築デザイナーの友人とルームシェアをしていたときに、それを目の当たりにしました。その家は、 50平方メートルの2DK。日本よりは広々しているだろうと思われるイタリアの家事情ですが、都会には、こんなクラスの狭いお家もたくさんあります。振り分けの小さなふた部屋をそれぞれ使い、ダイニングキッチンがパブリックスペース。家具は、毎週蚤の市に通って集めた50年代風のものを中心に、新品でもそこはかとなく50年代が香るものに限定。お仕着せのものを並べるだけでなく、時間をかけて少しずつ買い集めた家具は、コンセプトが揃っていると違和感よりも「選んだ感」出るものです。また、色遣いも徹底していて、白と黄緑限定。なければ塗り替えるくらいは当たり前。

丸見えのキッチンも、雑貨類は白か黄緑限定で、一度、日本製のカップラーメンを置いておいたら、「見えないところに隠せ」と叱られました(笑)。パッケージが黄緑か白だったら、見せておいてもよかったのだろうか?などと考えるまでもなく、やはり、審美眼に沿わないパッケージは、見えないところへ。見せるキッチンは、使い勝手より見た眼を追求できるマメさがないと、美しさをキープするのは難しいものです。

「見せるキッチン」と言えば、ごちゃごちゃしてるのを逆手に取った友人宅もあります。キッチン前の壁に、青、赤、黄色…などなどカラフルなタイルを適当な大きさと形に割って張り付けモザイクに。色味に目を奪われて、手前のごちゃごちゃ感が希薄になる(ことがコンセプトだったかどうかは不明ですが)というテクニックには感心しました。ただし、雑貨はステンレス製で統一感を出し、蛍光灯などは絶対に点けず、スポットライトで手もとだけ照らすようになっていて、キッチン自体もムーディに演出。ごちゃごちゃさせているようでも、やはり抜かりはありません。

ナチュラル派の友人宅は、秋から冬は、赤やオレンジの暖色系ファブリック(ちなみに食器やグラスも暖色系)、春から夏は寒色系に衣替え。壁にかけた大きな鏡は全体の雰囲気と合わせるために、周りにブドウの木のツルを配したり、天井から下がるライトの線に麻布を巻いたり。無機質になりがちな洗面所やバスルームも、散歩途中で拾った松ぼっくりや枯れ葉をガラスの花瓶に入れて飾ったり、貝殻を石鹸入れにしたり。そこここに自然の風合いが感じられるインテリアになっています。

個性豊かに演出され、随所にこだわりが見えるどの家のインテリアも、「見せる」ことに重点が置かれていますが、意外と生活感もあり、ショールーム然とした冷たさありません。それは、きっと空間作りの主役は、お客様ではなく、そこで一番長い時間を過ごす家族や自分だから。逆にいえば、家族や自分が心地よく、素敵な時間を過ごすための空間であるからこそ、ここまで徹底的にこだわれるのではないかと思います。美しく、かつ居心地がいいインテリアには、家庭の時間を大切する愛情が表れるものなんですよね。

ワンポイントイタリア語講座

意味: あなたの部屋、センスいいわね~。

Gustoグーストは「味」や「風味」の他、「美的センス」や「嗜好」などの意味があります。日本語で日常的に使う「センス」を表すには、このグーストを使います。「Avere un buon gusto per…」で、「~のセンスがいい」になります。ちなみに「センスが悪い」は、un cattivo gustoウン・カティーボ・グースト。家具インテリアやインテリア・デザインはarredamentoアレッダメントを使います。