イタリア 万歳

ドラマチックなバロックの町では、
ドラマチックな味覚にも出会う
(text & photo by 岩田砂和子)

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地中海に浮かぶ島シチリアのゲートウェイシティは、西岸のパレルモ(シチリア州の州都)と東岸のカターニャ。その間は約200キロ以上も離れています。シチリア州は、イタリアで一番大きな州でもあり、島内には、この二つの代表的な街の他、アルキメデスの生まれたシラクーサ、塩田があるトラパニ、ギリシャ遺跡で有名なアグリジェント、映画「グラン・ブルー」のロケ地タオルミーナなどなど、それぞれ個性的な町が点在しています。

さて、今回訪れたシチリア島東部のノート・モディカ・ノートは、東岸のカターニャから車で約2時間弱の田園地帯にあります。シチリアに多い急な丘陵の斜面を利用した、坂ばかりの町々ですが、坂道を昇り降りする間に、数々の壮麗なバロック様式の建物に出会えるのが楽しい。これらの町々は、一帯を襲った 1693年の大地震で一度全壊してしまいましたが、計画的な町作りによって見事に復興した歴史があります。そのとき、用いられたのが、当時流行していたバロック様式でした。統一感のあるバロック様式の町並みは、300年経った今でも健在。この3つの町を含むエリア全体は、「ヴァル・ディ・ノートの後期バロック様式の町々」として世界遺産にも登録されています。

バロック様式は、ポルトガル語の「ゆがんだ真珠」もしくは「複雑で難解」といった意味を示すラテン語が語源とされていますが、いずれにしてもドラマチックで華美な装飾性が特徴。このエリアで見られる「シチリア・バロック」の建物群も、曲線や凹凸を駆使した多用な装飾が施されています。華やかな教会のファサードはもちろんですが、見どころは、路地に張り出した住宅のバルコニーの支え。人魚風の女性像やライオン、想像上の生き物など、ユーモラスな彫刻がバルコニーの下から路地を見下ろしています。こんな舞台装置のような芸術が彩る町では、日々の暮らしさえも、まるで演出されたドラマのようでしょうね、きっと。

そんなバロックの町々では、お皿の上にもドラマチックな演出に出会いました。カジキマグロのフィレにクワの実のジャムを和えたアンティパストや、名産のアーモンドミルク「Latte di mandorla」をかけた生エビ、リコッタチーズを和えた生ウニ、バラの風味を加えたオリーブオイルなどなど。聞くと一瞬、「その組み合わせどうなの?!」と思うような食材の組み合わせですが、口の中に入れると思わぬハーモニーを奏でる。それぞれの食材の持つポテンシャルを相乗的に上げるような味わいになっているのでした。エトナ山麓の村ブロンテの名産品ピスタチオとネブロディ山脈で飼育されるブランド黒豚「Maiale nero di Monte Nebrodi」(日本では希少価値の高い食べる世界遺産と呼ばれているとか?)の薄切り三枚肉を使ったソースでいただくパスタは最高でした…。

味覚には甘い、辛い、苦い…などなどいろいろありますが、日頃からの鍛錬およびセンスがないと、複雑な味わいを舌も脳も感じられないもの。バロックの複雑怪奇ともいえる装飾を日々眺めて暮らす人々の感性は、とても豊かに発達しているのではなかろうか?

このエリアはまた、ドルチェの美味しさでも知られるところ。モディカには、ザラリとお砂糖の結晶を残した食感が独特の「モディカ・チョコレート」がありますが、このチョコレートに、なんと牛ひき肉を加えて練って、生地で包んだ焼いた伝統菓子がありました!ノートの伝統シチリア菓子「トッローネ」の老舗「カフェ・シチリア」では、華やかなドルチェたちにも出会い…この名店を継ぐ4代目菓子職人コラード氏に「やはりこの華やかさはバロック的ですね」と聞くと、氏曰く「いえ、バロックは見た目だけではありません。口の中で感じる食材と食感のバラエティ。それこそがバロック的なのですよ」。お菓子にもバロック。建築や音楽で知られるバロック様式ですが、味覚にもバロック的感性が感じら町々。訪れるときは、ぜひ五感(特に視覚と味覚)の感度を高めてどうぞ!

ワンポイントイタリア語講座

意味:わーお、すばらしい!

バロックの建物などを見たときの感嘆句には、欠かせませんね。もしくは、「Che bellezza spettacolare!」(ケ・ベッレッツァ・スペッタコラーレ)で、「なんと華やかな美しさ!」です。スペッターコロは、「ショー・芝居・公演」などの意味があります。英語の「Spectacleスペクタクル」と同意です。イタリアには美しいものがいっぱい。「Che bella(o)!」(ケ・ベッラ(オ))だけでは、表現が足りないかも。と思うときが多々あります。