イタリア 万歳

地中海の文明が交差するシチリア島は、
イタリアであってイタリアでない?!
(text & photo by 岩田砂和子)

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シチリアは、イタリアの南端に浮かぶ島。イタリア半島をブーツに例えると、そのブーツがコンッと蹴った小石…のような場所にあります。南イタリアを代表するこの島は、島全体が「シチリア州」として、イタリア20州のうちのひとつに数えられてはいますが、この土地を訪れると、「イタリアの一部」と言ってしまっていいのだろうか?とそんな気持ちになります。ローマよりももっと濃い青空はいつも晴れ渡り、からりと乾燥した空気にレモンの花が揺れる。島をぐるりと囲む透明な地中海がもたらす新鮮な魚介類!イタリアのどこよりもイタリア的ではありますが、決してここは、イタリアではない。

地図を見ると、シチリア島は見事に地中海のど真ん中に浮かんでいるのがわかります。ギリシャ、アフリカ、アラブ諸国も目と鼻の先。その地理的条件から、この島はさまざまな民族の通り道となってきました。最初の侵入者は、古代ギリシャ人。ローマ帝国時代よりもっと古い時代です。そして、ローマ帝国、ビザンチン帝国、ノルマン王国、スペイン王国、フランス王国…。この島は、有史以来、その時代の列強国による侵略と支配に彩られてきましたが、その折々に各民族の文化が持ち込まれました。シラクーサやアグリジェントに残るギリシャ遺跡をはじめ、州都パレルモに見るアラブ・ノルマン様式のエキゾチックな教会群や、スペイン支配時代に建築されたシチリア・バロック様式の壮麗な街並み。この島には、地中海三千年分の歴史があります。

ギリシャ、ローマ、アラブ、アフリカ、スペイン…地中海文化が融合し熟成し、そうしてシチリアになった。ここがイタリア的だけどイタリアでないのは、イタリアよりもっと広い地中海世界の記憶を留めているからなのです。

旅行記の最高峰として知られる文豪ゲーテの「イタリア紀行」の中でも、「シチリアなしのイタリアなんて、なんの心象も残らない。シチリア、すべての鍵はここにあるのだ」などと大絶賛されているシチリアですが、おこがましくも、私もこの土地の魅力に参っている一人です。毎年、どこかのタイミングで必ず訪れていますが(ローマからは飛行機で1時間)、旅立つ前のワクワク感は、北イタリアへの旅行前とは比べようになりません(北イタリアファンの方、失礼!)。それは、前世でこの土地と何かあったのではないかと思う程。島の周囲をめぐるグランブルーの海岸線、きらめく地中海の太陽、それだけでも十分魅力的なのに、そこには地中海三千年の記憶が凝縮されている…。

そしてその記憶の凝縮は、建築物などのハード面だけでなく、伝統や食、芸術など、ソフト面でも存分に感じることができます。古代ギリシャ神話に起源をもつ収穫祭や、アラブ式の伝統マグロ漁。太陽の恩恵を受けた島の豊富な食材と長い歴史の掛け合わせが生む食卓の豊かさは、イタリアの他の地方と比べても類を見ません(と、少なくとも私はそう思う)。日本人顔負けの魚介料理に、名産のアーモンドやピスタチオが使われるパスタ料理、アフリカ料理の「クスクス」までシチリアバージョンになって伝統料理に登場します。またドルチェの美味なことと言ったら、1回の旅行につき3キロ増は確実…。18世紀末に訪れた文豪がどうだったかはわかりませんが、食いしん坊の私がこの島に惹かれる一番の理由は、これかも(笑)。

シチリア島内随所に見どころ・食べどころはありますが、今回、東岸の「ヴァル・ディ・ノート」と呼ばれるエリアを訪れました。ここは、シチリア・バロックの至宝ノート・モディカ・ラグーザの3都市があります。この3都市を含めたエリア全体が、ユネスコ世界遺産にも指定されています。…と、ここまで書いたところでスペースが一杯。次回、シチリア東岸バロックの街々をご紹介します。もちろん、美味なるごちそうも!

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ワンポイントイタリア語講座

意味:いつか、シチリアに行こう

Andro’は、Andare(アンダーレ)の未来形・一人称単数です。「○○へ」と場所を示す前置詞は、国、州の場合は「in」、町などの場合は「a」を地名の前につけます。「ローマへ」なら、「a Roma」、「イタリアへ」なら「in Italia」になります。