イタリア 万歳

イタリアン大家族の食卓で見た
おばあちゃんのテクニック?!
(text & photo by 岩田砂和子)

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イタリア男性はほめ上手。その一方で日本人男性は云々…と、あちこちに書いてきた私ですが、このたび、改めて気づきました。それは見方が甘かった。と。イタリアで最もほめ上手なのは、女性。ほめ上手な男性は、さらにほめ上手な女性の手の平の上にいたのです。

先日、約10日ほどかけてイタリア各地の田舎をめぐる取材に行ってきました。農家や元貴族のお屋敷を宿泊施設に改装して、 田舎暮らしが体験できるアグリツーリズモにした各家庭を取材させていただくというものでした。 本来であれば、撮影終了後はスタッフ共々ホテルに引き上げるのですが、今回の取材先はどこも「真」の田園地帯の真ん中にあり、 ホテルに泊まりたくてもない!それゆえ、自動的に「じゃあ、家に泊まって」となり、すると自然に「じゃあ、食事も一緒に」ともなり、 予定外にTV番組の「田舎に泊まろう」の消極型イタリア編風に。宿泊施設だけの取材のつもりが、 すっかりイタリア人家族の親切にどっぷり浸かってご家庭も拝見といった取材になってしまいました。

イタリア人というのは、そもそも「おもてなし」に全精力を注ぐ国民性があるようで、 たいていどこへ行っても食事のおもてなしを受けます(ありがたいです)。そんなときは、断る方がマナー違反で、 美味しく頂いて存分に盛り上がるのが礼儀(多分)。彼らにとっては遠い東洋の未知の国からやってきた日本人とあれば、 5歳児から80歳のおじいちゃんまで興味津々。宗教観から生活習慣、はたまた第二次世界大戦の話に至るまで、 繰り出されるさまざまな質問に対応し、場を盛り上げるために一役買うのも重要なミッション。 地元産の食材を使った美味なる郷土料理と産直ワインの晩餐で楽しく盛り上がり、 リラックスしたリアルなイタリア人の家族模様に触れるのもまたよし。緊張も解ける頃には、子供が泣き、 気の強い嫁と跡取り息子夫婦が言い争いを始め、おじいちゃんが歌いだす…。

そんな絵に描いたようなイタリアの大家族に囲まれた各家庭の食卓で、印象強く感じたのは、おじいちゃんとおばあちゃんカップルの仲の良さ。テーブルの話題の中心にいるのは、やはり(声量の大きい)孫や息子夫婦になりますが、傍らで行われている老夫婦のコミュニケーションが絶妙で、ついつい興味が奪われてしまいました。

たとえ嫁がいても、基本的にテーブルの采配はグラン・マザー。空いたお皿を片付けたり次の料理を出すタイミングはおばあちゃんが仕切っています。仲が良いなあと思った家族は特にお嫁さんには指示は出さず、むしろご主人であるおじいちゃんに指示が飛んでいました。「このお皿キッチンに下げてくれる?」と声をかけると「人使いが荒いな~」などと言いつつ席を立つおじいちゃん。その後ろ姿にすかさず「ああ、私の夫は優しいわ。生まれ変わってもアナタと結婚するわ。」などと声をかけ、話の輪に戻るおばあちゃん。「家のトマトを食べさせたいから、切ってきて。」と言えば同時に「彼の作るトマトは世界中のどこでも買えない美味しさなのよ。」とさらりと一言。ご主人の方は照れもせず、ウンウンとうなずいてにこやかにキッチンにトマトを切りに行きます。暖炉をつけるときも「私の夫が、この家で一番薪に火をつけるのが上手なの。」と言われたら、食事の手を止めてでも席を立ち、自慢の腕を見せたくなるものでしょう。

ほめ上手でノセ上手。もちろん息子たちもこの調子でほめちぎるノセまくるで、おばあちゃん(息子にとってはマンマ)の周りでよく働いていましたね。もちろんアモーレが第一に必要ですが、かわいくほめて、上手にノセて、思いのままに家族を仕切るその姿には、末永く夫婦仲良く過ごすコツはここに極まれりといった感がありました。「肝っ玉母ちゃん」のイメージが強いイタリアンマンマですが、女はカワイイに越したことはない。仲良し夫婦のマンマは、みんな70歳過ぎても僕のかわいい奥さん♪といった感じでした。気分よく操られるなら、男性も本望ですよね、きっと。

ワンポイントイタリア語講座

意味: 次に生まれても、またアナタと結婚するわ

「アナタと結婚する」は「Ti sposo ティ・スポーゾ」。Sposeroは、未来型です。 もっとこなれた言い回しは、「Ti sposerei ティ・スポゼレイ」。こちらは、条件法の動詞変化。「(あるかわからない次の人生において、もしかしたら)結婚するだろうな」と仮定の意味が加わります。こんなこと、夫にさらりと言えちゃうおばあちゃん。カワイくって、言うこと聞きたくなっちゃいますよね。