イタリア 万歳

電車やバス、公共の乗り物で
席を譲られるべきは…、誰?!
(text & photo by 岩田砂和子)

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先日、日本からきていた友人が、「バスで席を譲られた!」と興奮して報告してくれました。 彼女は見目麗しい30代後半の女性。決して、少々太り気味で妊婦に見えたわけでも、 年より老けて見られたわけでもなさそう。でもなんで?話の顛末は、こんな感じです。

友人が乗ったバスは、立った人もパラパラといるようなやや混みの乗車率でした。彼女が立った脇には、初老の男性が立っていました。彼は、彼の前の席に座っている伴侶と思しきご婦人と楽しげに会話をしていましたが、次のバス停につくと、友人の前の席が空きました。 友人は、当然のマナーとして、 自分よりはるかに歳を取っているであろう初老の男性に向かって「どうぞ」と立ち位置をずらし、席を譲ろうとしました。 すると、男性は「いや、どうぞ」と友人に席を譲ったのです。

遠慮しているのかと思いこんだ友人は、「いやいやどうぞ」とさらに譲ろうとすると、 男性もまけずに「いやいやどうぞどうぞ」と次第に「どうぞ」合戦に。 強固に座らない姿勢を見せ続ける友人に、男性の方が根負け(?)した様子。 最後は、「グラッツィエ」と言って、席に座ってくれたそうです。友人は一瞬の勝利感に酔いつつ、はたと気づく。 おじさんの笑顔が微妙。そこで質問。「もしかして、私、なんか変なことした?マナーのつもりで席譲ったんだけど。 イタリアでは老人に席を譲らないの?!」いえ、イタリアでは、とても気前よくご老人に席は譲るものです。ただし…。

イタリアでは、電車やバスなど公共の乗り物で、男性はとても自然に女性に席を譲ります。もちろん、「お年寄りに席を譲る」のは鉄則としてありますが、それ以前に、第1は女性、第2に男性の優先順位があるんですね。それは、相手の女性が若かろうが、多少歳がいってようが、無関係に。それゆえ、よほどのご老人でなければ、男性が女性に席を譲られることはあまりありません。だから、この初老の男性の微妙な笑顔は、「おばさん扱いされて、席を譲られた」と憤慨する妙齢の女性の感覚と同じようなもので、「俺って、男としてもうイケてないって見られてる?」だったかもしれません。

優先順位は車内だけにとどまらず、細い道路で行き交うときも、相手が女性なら男性は、大仰に手を広げて「プレーゴ(どうぞ)」と先に通してくれるし、エレベーターで乗り合えば、ドアを開けて(イタリアのエレベーターのドアは手動の場合が多いのです)「プレーゴ」。スーパーマーケットの出入り口ですら、同時に並べば、自動ドアを開けて(超親切!)「マダム、プレーゴ(お先にどうぞ)!」です。そんな場合は、恐縮せずに堂々と「グラッツィエ」とにっこり笑って受け入れておく。「婦人への献身」がそのコンセプトのひとつに掲げられているいわゆる「騎士道精神」から、こういった親切が根付いているイタリアでは、この手の親切に深い意味はありませんから、女性も甘んじて優先されておくのがその場をスムーズにこなすためのマナーなのです。この座席の「どうぞ」合戦では、「あら~!ありがとうございます。」と座らせていただいた後、お礼の一環として「ステキ。」といった視線をおじさまに送ってさしあげるのがイタリア流マナーでした(本当か?!)

日々の小さな出来事において、親切に優先されるのは、なかなか暮らしやすく気持ちいいものではあります。まあ、基本的なマナーの違いですからね、イタリア人男性と日本人男性のどっちがいいという話ではないので、あしからず!

ワンポイントイタリア語講座

意味:どうぞ、お座り下さいませ!

「Grazieありがとう」「Pregoどういたしまして」と対で習うことが多いですが、実際のところ、「Prego(どうぞ)」「Grazie!」の順で使う場面も多いです。そんな場合のGrazieにはなんと答えるか?「Di niente(ディ・ニエンテ)別に何でもありませんよ」と謙遜するのがこなれた言い方です。「Si accomodi」は、accomodarsi(アッコモダルシ)の丁寧な命令形。意味は「くつろぐ、腰掛ける、入る」などです。