イタリア 万歳

夏にイタリアに行くと冷房病が治る?!
クーラーなしでも楽しく暮らすイタリアの知恵。
(text & photo by 岩田砂和子)

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イタリアの夏は暑い。緯度で言えば北海道と同じ程度であるにもかかわらず、地中海気候のイタリア、アフリカからの熱風にあおられ、夏は非常に暑いのです。我がローマでも、6~8月中は38度、39度…そして、ドカーンと40度を超えることもしばしば。アスファルトが溶けてやや柔らかくなった道を踏みしめ、 40度の街を歩くとき、「人間の身体ってスゴイ」と思わざるを得ません。体温より高い空気でも耐えられるんだな~と。

イタリアの夏は、みんながバカンスに行ってしまい連絡は取れない仕事は進まない、と世界各国から文句を言われますが、それも仕方のないこと。ドライヤーの風に常に当たっているような暑さの中で、やっぱり仕事はできないでしょう。身体に悪いもの。バカンスに行ったところで暑いのには変わりはありませんが、裸同然の水着姿で日がな一日過ごし、暑くなれば冷ややかな海に飛び込めるのだから、やはり街にいてきちんと洋服を着ているよりは、何十倍も過ごしやすいのです。それに…何も考えなくていい、何もしなくていいというのは過酷な暑さ環境においては、想像するより重要なことでもあります。心も身体も生命活動を維持することだけに意識を集中できるわけですから。ストレスなんて、この暑さでは耐えられません。食べる、飲む、笑う、寝る。生きる上で大事なことだけできるバカンスはやっぱり暑いイタリアでは重要な習慣です。

さて、そんなイタリアの夏。日本のようにガンガン冷房を効かせて、通常営業をしてみたら?と思わなくもないですが、そんな環境にも身体にも悪いこと、イタリア人は良しとしません。夏の日本に訪れたことのあるイタリア人はたいてい、寒い電車、寒いレストラン、寒いデパート、そして室外機の気だるい暑さにやられ、たちまち体調を崩します(本当)。

もちろん、イタリアにもクーラーはありますが、あまりきちんと機能していることはありません。天井の高い造りであまり効かないのか、設定温度が高すぎるのか。冷え冷えする程効いているといったケースは、ホテルくらいなものでしょうか。レストランでも夜になれば店頭にテーブルを並べ、涼しい風に吹かれながら外で食事ができるようになります。周辺の店舗もクーラーをあまり使わないので、室外機のあのムーンとした暑さがないため、すがすがしい夜気が訪れる夜は、オープンエアのテラス席は気持ちがいい。路地に並んだテーブルでワイワイガヤガヤ食事をするイタリア人の姿は、映画のワンシーンのように詩的。イタリアの真夏の夜の風物詩でもあります。

イタリアでは、南イタリアに行くほど家屋の窓が小さくなります。それは、昼間の灼熱の太陽を遮って家の中に入れないようにするため。暑いとついつい窓を開け放して、空気の入れ替えをしたくなるところですが、それはイタリアでは大きな間違いなのです。太陽がギラギラ輝く11時~16時頃は、窓を閉めて雨戸も閉めて、夜のうちに冷えた空気を逃さないように。アパルタメントの最上階の部屋も直射日光に天井から暖められるという理由で、家賃も少しお安くなっているケースがあったりします。日当たりのいい部屋は、イタリア、特に南イタリアでは実は不人気なのです。

何百年も昔、クーラーがなかった頃に建てられたイタリアの石の家屋の壁は厚く、外気を遮断して室内は涼しく保つことができます。外は灼熱の太陽が降り注いでいても、一歩家に入れば、ひんやり。といってもさーっと汗が引くほどの外気と内気の温度差はなく、身体も順応しやすい程度です。人間の身体も自然の一部。不自然な冷やしすぎは、ときに気持ちいいけどやっぱり身体に負担がかかりますよね。

ワンポイントイタリア語講座

意味:エアコン消す?

クーラーに頼り切ったまま夏のイタリアに行くと、温度調節機能が今ひとつ機能しないからか、とってもツラくなります。が、数日過ごすうちだんだん身体が暑さに対応してきます。人間の身体は自分が思うより精巧でたくましいものなんだな、と思います。