イタリア 万歳

日本の新聞報道がローマを変えた?
只今親切キャンペーン真っ最中
(text & photo by 岩田砂和子)

上
下

先月、ローマを旅行した日本人カップルが旧市街にあるリストランテでランチを食べた際、「不当に700ユーロも請求された!」というニュースがありました。日本でも報道されたので、ご存じの方も多いかと思います。イタリア、特にご当地であるローマでは、このニュースは相当な話題となりました。

 話の顛末は、「店員さんにお任せしたところ、次々と料理が出され、最終的な料金が約700ユーロになっていた。その中には100ユーロ強のチップも許可なく含まれていた。その後、このカップルは警察に駆け込み、当局が介入。経営の方法、および衛生的な問題も発覚し、リストランテは免許取り消しに至った。」というものでした。さらに、このニュースに続き、「ローマは不明瞭な料金を請求するタクシーやリストランテが多く、日本人旅行者が減っている」と日本の新聞で報道されたというニュースが流れ、一時ローマの街は戦々恐々。ちょうど某雑誌の取材でローマのリストランテを訪れ、シェフにインタビューする仕事をしていたため、ローマの人たちの反応を如実に感じることができました。

 有名店、穴場店のシェフたちが、口々に言っていたのは、「こんな店や報道のせいで、自分達も同じように不当な料金を請求すると思われたら、本当に困る!日本人の旅行者はマナーがいいし、大切にしている」。タクシーに乗れば、「だまそうとしているタクシー運転手は一部で、多くはまじめに仕事してるのに…」などと、私を日本人と見るや、怒りとも愚痴とも言えない微妙な心持を訴えるタクシー運転手やシェフが思いのほか多く、ずいぶん顕著に反応しているなぁと驚いた次第です。たぶん、ニュースに対するローマ人の反応までは、日本で報道もされていないですよね。ちょっと気の毒になってしまいました。

しかし、実際のところはどうなんでしょう?イタリアの大手新聞社「ラ・レプッブリカ紙」の記者が観光客に変装して、ローマの観光スポットをめぐる馬車に乗ってみた。などという記事もありましたが、「観光客だと、イタリア人の料金の倍」だったとか。イタリア人記者がどうやって外国人観光客のふりができたのか、ちょっと微妙な部分も残りますが(笑)、ここで大切なのは、「やっぱりだますんじゃん!」と証明されたかどうかより、今まで観光客が被害にあっても、我関せずだったイタリア人たちも、この手の問題に興味を持ち始めた。と言うところではないかと思うのです。

 悲しい声で訴えていたタクシー運転手たちですが、実のところ、料金は結構適当で、例えば「9.84ユーロ」なら10ユーロ出してもお釣りはないし、荷物一つにつき1ユーロ加算が規定料金のはずなのに、「13.38ユーロ」が荷物一つでも15ユーロになったりしていたものですが、最近はきっちりとお釣りをくれるようになりました。この手の端数切り捨ては、「お釣りをごまかしてやろう」などというアクドイ意識からではなく、「細かいお釣りの計算が面倒くさい」のが理由。でも、「適当にやってると日本人に嫌われる!」と思ったのか、急に頑張っているようでちょっとおかしい。もちろん、空港から市内までを 100ユーロ近くとる正真正銘の「ぼったくり」タクシーも実際にいますので、油断はできませんが、この手の良心的(いや、あまり深く考えていなかった)市内のタクシーは、こんな変化がありました。リストランテも、最近、妙に愛想がいい…。

 イタリアは日本のようになんでもきっちりキチンとしている国とは違います。いろいろなことが適当で、いろいろなことが「まあ、いいじゃない」で済まされます。「これおかしい!」と思ったら、まず文句。文句を言う「うるさい客」には、希望に沿おうと努力をしてくれる親切(で単純)なところはありますから。今回のニュースは、なかなか面と向かって文句を言えない日本人旅行者のために、新聞がまとめて文句を突き付けてくれたような気がします。こんな親切キャンペーンがいつまで続くかわかりませんが、今、イタリアは旅行のしどき?かもしれません。

ワンポイントイタリア語講座

意味: この料金高くない?どういう理由か説明して。

「giustificare」は、「弁明する」「正当であると証明する」といった意味があります。できたら、こんな文句は言いたくないですが、おかしいな?と思ったら、「私はおかしいと思っている」とすぐに意思表示することが大切です。日本ではあり得ないことですけど、異国ではある。そんな異文化に触れることが海外旅行の醍醐味ではありますが、いい思い出を作るためにも、損害を被らないよう普段し慣れない努力をする(文句を言う)ことも必要なんですよね。