イタリア 万歳

衝撃的に甘い?!だけじゃない
本当に美味しいシチリア菓子
(text & photo by 岩田砂和子)

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イタリアに旅行して困ること…のひとつに、「お土産用のお菓子」があります。とても些細なことですが、これが意外に困るもの。イタリアには、ハワイのマカデミアナッツチョコ的に、会社やご近所、友人などに「はい、お土産」。と渡した時、説明なくして「ああ、イタリアに行ってきたのね」。と分かってもらえる代表的なお菓子がないんですよね。しいていえば、銀紙に包まれた「BACI」というチョコレート。全国展開している大手メーカーのもので、知名度も高いし、空港やスーパーでも買えるし、配りやすい。ということで、お土産用にはピッタリではあります。

一度、ローマのスペイン階段そばにあるスーパーマーケットの店員さんに「日本ではチョコレートが買えないの?」と聞かれたことがありました。「もちろん買えるよ。なんでそんな変なこと聞くの?」と聞き返してみると、「いや~、日本人ツーリストがいつも大量に買って行くからさ」。そんな風に思う人がいるなんて少々驚きですが、ローマの人にとってみたら、わざわざ遠い国からやってきて、何もローマでペルージャに本社のある「BACI」ばかり買わなくてもいいだろう。と思うのも自然かもしれません。

毎度毎度同じことを書いているようですが、イタリアは郷土色が色濃く残る国。イタリア代表となると、なかなか探すのが難しいですが、各町を代表するお菓子というのは数限りなくあるわけです。なかでも、「あそこのあれ」として全国的に有名な伝統菓子がある街と言えば、ナポリとシチリア。ナポリは、ラム酒シロップをたっぷり染み込ませたサバラン「ババッ」や幾層にもパイ生地を重ねた「スフォリアテッラ」などがあり、そして、シチリアには、固いパイ生地をくるりと丸めた中に、リコッタクリームを詰め込んだ「カンノーロ・シチリアーノ」や、タルト形のリコッタケーキを緑色のピスタチオクリームでコーティングして、上部にさまざまなデコレーションを施した「カッサータ・シチリアーナ」、アーモンド生地で本物そっくりに作る「フルッタ・マルトラーナ」など、見た目にも美しい華やかなお菓子があります。

シチリアのお菓子は、アラブ民族から持ち込まれた原型が、各地域で育まれ発展してきた歴史があるそうで、「カンノーロ」「カッサータ」と同じ名前で呼ばれていても、パレルモ風があり、カターニャ風があり、と各町で微妙に変化します。さらには、同じ街の中でもお店によって味が変わるから、もはやどれが基本形なのかは謎。お菓子ではないですが、「お雑煮」が各地域、各家庭で異なるレシピ&味になるのと同じような感覚ですね。

千年以上も歴史を持つ伝統菓子…想像するだけで、なんだか美味しそうではありますが、一度でも食べた事のある人は、その甘さに衝撃を受けたのではないでしょうか。ひと口食べるだけで脳天直撃、クラクラする程の甘さに、濃厚なリコッタクリームは消化不能!私も初めて食べたときは、「うーん、アラブ風味…」とドンビキしたのを覚えています。しかし、真夏は40度にまで気温が上がるシチリア。からっからに乾燥した空気の中で食べると、これがどうしたことが体に染み渡るように美味しいのです。伝統菓子も、「身土不二」。その土地に根付き、人々に親しまれ続ける理由があるものだ。と感じさせられます。千年越えの歴史は侮れません。

とはいえ、パスティエレ(菓子職人)の腕によるのも正直なところ。たとえ本場シチリアで食べたとて、砂糖の味で一切合財をカバーしてしまっているような大雑把なシチリア菓子は、やっぱり脳がしびれてちっとも美味しくありません。「カンノーロ」なら、食べる直前にパイ生地にリコッタクリームを詰めてくれる店、「カッサータ」なら、周囲を覆うピスタチオの緑が、あまりに鮮やかでないところ。カリッと歯ごたえの残るパイ生地やピスタチオ本来の素朴な風味が、ベースとなるまろやかなリコッタクリームのコクを引き立てます。まったくの主観ではありますが、今まで食べた中の最高峰はノートの「カフェ・シチリア」(vol.55でご紹介したお店)。素材の味が甘さの中に香る繊細なシチリア菓子でした。ああ、また食べたい。

ワンポイントイタリア語講座

意味:ん~美味!

「美味しい!」と表現するときのイタリア語は、「Buono(ブオノ)」が知られていますが、それよりもっと深みのある表現として、「素晴らしい」と感嘆を込めて表現したいときに使います。シチリアの味は、お菓子も含めてスクイシート。vol.55でご紹介したように、「Che Buono!(ケ・ブオノ!)」(なんて美味しいんだ!)だけでは、表現が足りないかも。と思うときが多々あります。