イタリア 万歳

情緒満点の石畳だけれど、
歩きにくさも満点…
(text & photo by 岩田砂和子)

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ローマの道は、石畳。ミケランジェロが設計したルネッサンスの建物や、ベルニーニが遺した大理石の噴水が街を彩る古都には、やっぱり無味乾燥なアスファルトよりも石畳が良く似合います。

古都の風景になくてはならない石畳。観光客にとってはフォトジェニック、情緒満点な石畳も、そこで暮らす人々にとっては、なかなか厄介なもの。スーツケースを転がしたことがある人は、きっとご存知でしょう。まっすぐ引いているつもりでも、ガタゴトガタゴト、重い荷物は明後日の方向に。普通に歩くだけでも足首のエクササイズになるほど、石畳の道はデコボコしています。雨が降れば表面は艶が出て、ツルリと滑るし、その上、石畳と言ったって、畳のようにきっちりと「目」が詰まってることはなく、石と石の間は隙間だらけで、うっかりするとヒールがはまる…。日常暮らしに罠が仕掛けられているようなものです。

気取ってヒールでカツカツ歩いていても、ときたまカクッと隙間に落ちますが、奇しくもヒールの太さと石畳の隙間のサイズが同じだったりすれば、足が抜けない!なんてことも。イタリアでは、概ね街の人々が親切なので、一緒に石畳から靴を「抜く」のを手伝ってくれるので、1人恥ずかしい思いをせずに済むだけましですが、残念ながらヒールは傷だらけ。ヴィチーニやレネ・カオビラ、セルジオ・ロッシなど、イタリアンブランドが発表する美しい靴たちは、ご当地の石畳にはいかにも不都合で、これらは決して街歩きのために作られた靴ではないんだなぁと改めて実感させてくれます。

さて、そんな暮らしにくい石畳ではありますが、数年前、石畳の道をアスファルトに変えてしまおうという計画が持ち上がったときには、市民の反対を得て保存されることになりました。ローマでは、昨年夏から大規模な補修工事が始まっています。補修工事は古い石畳をはがし、下地のコンクリートを整えて砂利を敷き詰め、その上に、15cm四方のコロリとした立方体の石をはめていきます。石畳をはめるのは、なんと手作業です!カンコンカンコンとはめながら…一日に何メートル進むのやら?まったく根気の要る作業です。

石畳は、ローマにある建物や遺跡と同様に、何百年もの歴史を経たものだと思われる方が多いようですが、実は、このようにたまに張り替えたりしています。そう、気の遠くなるような手作業で。歩きにくい、工事は大変。工事中の渋滞は必至。でもローマの人たちは、暮らしやすさよりも、石畳を選ぶ。街の美観を保存しようという姿勢は、ときに日本も学ぶべきでは?と思うことがあります。まあ、工事の効率についてはイタリアも日本から学ぶべきでは?とは思いますが。

ローマでは、石畳のことを「サン・ピエトリーニ」と呼んでいます。キリストの友人、天国の鍵を持つ聖人、サン・ピエトロに由来しています。1585年にサン・ピエトロ広場に石畳が用いられたことから、その名前で呼ばれているそう。なんだかほのかにありがたい感じも漂います。ローマ人たちが愛する聖なる石畳。文句は言わずに、さあ今日も、ペタンコ靴で足首のエクササイズにはげむとしましょうか。

ワンポイントイタリア語講座

意味:石畳のせいで、捻挫した!

「colpa di ○○(コルパ・ディ・○○)」で、「○○に責任がある」の意味になります。「colpa tua (colpa di te)コルパ・トゥア」なら「アナタのせいよっ!」といった感じ。「Storta ストルタ」は、「捻挫」です。ローマを旅行をする際には、必要になる単語かもしれません?!どうぞお気をつけ下さいませ