イタリア 万歳

その安心感は精神安定剤並み?!
頑丈な石造りの家の暮らし
(text & photo by 岩田砂和子)

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イタリアの住居は、古い。古いと言うと、少々語弊がありますでしょうか。ローマをはじめ、フィレンツェ、ミラノ、ナポリ…どの街もCentro Storicoチェントロ・ストーリコ(旧市街)と呼ばれる街の中心地は、たいてい中世時代からルネッサンス時代、バロック時代にその基礎が完成しています。そして、21世紀。そのまま何も変わらず…築数百年の歴史ある建物が軒を連ねています。

世界遺産に登録されている街並みもあり、景観を損なう修復や改築も、厳しく法律で制限されているため、元の美しさを取り戻すための修復工事は見かけても、壊して建て直している様子を見かけることはほとんどありません。法律はもとより、まだまだ使えるし、わざわざ壊すこともないと思っているかどうかは不明ですが、旧市街に建ち並ぶ建物は、数百年の時を経た今もしっかり現役。石造りの建物は丈夫です。

市内には、歴史の趣がある旧市街と別に、人口の増加に合わせて開拓された新市街と呼ばれるエリアもありますが、こちらもだいたい1960~70年代に出来上がっているため、街なかに高層新築マンションが、ニョキニョキと建ち上がる余地はなく、少し郊外に行けば、開発中のエリアや目下建設中のマンション群、一戸建てを見つける程度。新築…イタリアでは、あまり聞かない言葉です(笑)。

旧市街の多くの建物は、一階はショップやリストランテに、2階以上は住居・アパルタメントになっています。数百年もの間、何度も修復が繰り返された内部は、建てられた当時のオリジナルを生かして修復されている家やショップも多く、間取りはもちろん壁や天井など建築素材も個性的。モダンなショップの壁にルネッサンス時代のフレスコ画が残っていたり、天井のアーチにかつて所有していた貴族の家紋を見つけたり。初めて訪れた家では、「これは、オリジナル?」「ええ、これは1800年の天井の梁なのよ」なんて会話が挨拶代わりに交されるのが当たり前です。シックなイタリアン家具が置かれた居間の天井で、渋い光を放つ古木の梁。なかなか味わい深い雰囲気です。

ローマ時代の遺跡がゴロゴロと至るところに残っているローマでは、地下室を造ろうとして掘ってみたら、遺跡が出てきた!建物は中世時代のものだけど、家の基礎はなんとローマ時代のものだった。なんてことが発覚することも多々あり、そんな場合には、新しいセメントで遺跡部分を隠してしまうのではなく、わざと 2000年の壁をむき出しにした修復を施し、おまけにライティングまでして、インテリアにしてしまったりします。長~い歴史と同居するイタリアならではのセンスを感じます。

古いものと新しいものが同居した空間は、なんともいえない安らぎが漂います。新品に囲まれたウキウキと浮き立つような喜びとはまた別の、地に足がついたような安心感。自分たちの先祖が作ってきた歴史と、その歴史を伝えるものを大切にすることは、今を安心して暮らすことにつながるのではなかろうかと、イタリアの暮らし方を見ていると感じます。「今まで大丈夫だったんだから、これからも大丈夫」そんな気分になるわけです。時代を越えてきたものが放つ存在感は、精神安定剤並み。日本的な諸行無常…とは対極にあるまさに異文化、頑丈な石の文化もまた良しです。

ワンポイントイタリア語講座

意味:いつの時代のもの?

イタリアのお宅やショップを訪れて、あちこち見学しながら必ず言ってしまう言葉。 磨り減った大理石の階段、使い込まれて渋く光るドア。「これ、いつの?」と聞けば、何世紀のものだかちゃんと答えてくれるもの。 ついでにちょっとしたストーリーも教えてくれることも。皆さん、本当に歴史を良くご存知です。 そんなイタリア人たちと接すると、先進のハイテク技術は知らなくても、楽しく生きていけるのよね。なんて思ってしまうわけです。