イタリア 万歳

日焼けとシミはバカンスの勲章?
イタリアの日焼け肌事情
(text & photo by 岩田砂和子)

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夏も後半に差し掛かると、街を行き交う人々のほぼ99.9%はは日焼け肌。濃い目のオリーブ色や艶やかなな褐色の肌を自慢げに露出した人々ばかりになります。白肌の人をたま~に見かけますが、ほとんどが日本人か韓国人の観光客。銀座あたりだったら、コテコテに日焼けした肌の方が不思議な存在なのでしょうけれど、ここイタリアでは、「夏に白肌」はかなり異質な存在に目に映ります。

紫外線の危険性がささやかれてから随分と経ちますが、それでも地中海人たちはせっせと日焼けにいそしみます。なぜなら日焼け肌=ステータスでもあるからです。この発想は、1950年代頃、戦後が終わってじょじょに経済が回復してきた時代に始まったそうで、それまでは日焼け肌=肉体労働者のイメージであったものが、生活が豊かになり、バカンスブームが始まる50年代になると、日焼け肌はバカンスの証、つまり、バカンスを楽しむ余裕をイメージさせるものに変化してきたとのこと。この風潮が、オゾン層が破壊されていると言われる今でも継続しているんですね。

日焼けは、時期的にも早ければ早い方がより格好よく、濃ければ濃いほど魅力的(と、思われていると想像できます。人々の様子を見ていると。)夏が始まると同時に早速バカンスを楽しんだと思わせる6月の日焼け肌は、誰もが真っ黒になる9月の日焼け肌より自慢度が高くなります。そんな雰囲気の中では、「白肌」にはなんの価値もありません(苦笑)!「バカンスに行けなかったのね、かわいそう」と思われるのがオチなのです。

さて、日焼けに対して大らかなイタリアの夏ですが、紫外線の強さが日本と比べて弱い、というわけではありません。昨年、EU連合の発表で「完璧に紫外線を防ぐ日焼け止めは存在しない」と発表があり、これまでイタリアで日焼け止め効果の高いクリームに使われていた「Protezione totaleプロテツィオーネ・トターレ(トータル・プロテクション)」といった誤解を招くような表記が禁止されることになりました。 2008年からは、UV-B波の防止指標のSPFを目安として表示すると共に、UV-A波の防止指標を「とても高い、高い、中ぐらい、低い」の4段階に定め、これを表記することが義務付けられています。

この発表と同時に、「11~15時の日焼けは避ける」「帽子とサングラスを常備」「大人では一回あたり36gを使用(ティースプーン6杯分)」などの指導も出されました。「5月頃からじょじょに太陽を浴びて肌を慣らさせる」、「SPFの高いものから順に下げていく」、「南中時は太陽を浴びない」など、長年の日焼け経験から「上手な日焼け法」を体得していたイタリア人たちですが、今後は健康を害さない「正しい日焼け法」で(やっぱり)日に焼いていくのでしょう。「日焼けしない」という選択肢はないでしょうから。

輝く太陽のもと、何もかもがまぶしい夏のイタリアでは、反射率の激しい白肌はよりまぶしい…というわけではないですが、健康的な褐色の肌に囲まれると、不健康そうな上、かつあんまり楽しく暮らしてなさそう…に見えるのも致し方ない。実際、暑いさなかに長袖のシャツや日傘や手袋で覆うなんて、かなり自虐的な行為ではありますよね。シミ?シミもやっぱり「バカンスの勲章」。「日焼けしたら仕方ないよ」と大らかにシミを容認する風潮も、日焼けを促進する要因です。 10年後の白肌より、今を楽しむ。夏にイタリアにいると、日本では必死に日焼け防止と美白に全神経を注ぎ自虐的な私も、ついふらふら~と太陽の誘惑につい負けてしまいます。最悪レーザー治療があるかな、なんて思いつつ。

ワンポイントイタリア語講座

意味:シミができたら、どうしよう!

日焼け後のシミはイタリア語では「le macchie bruneレ・マッキエ・ブルーネ」。ガンガンに日焼けするイタリア人たちには、もれなくついてくる代物ですが、日本人ほどマニアックに頓着する人はいません。「シミがコワくて日に焼けるか!」といったところでしょうか。シミもバカンスの証ですから。