イタリア 万歳

古くても愛着のあるものに囲まれた暮らしは心地いい。
修理職人さんの存在は偉大です!
(text & photo by 岩田砂和子)

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お気に入りのブーツのヒールを直そうと、日本で鍵や靴を直してくれるお店にもって行ったときのこと。「このカタチは直せません。」 3軒ほどあたっても同じ回答でした。カタチといってもそれほど特殊ではないウェッジソール。表面がブーツと同色同素材の裏皮で覆われているものでした。「もう捨てるしかないのか…」とガッカリ。しかし、ちょうどイタリアに戻るタイミングだったので、念のためイタリアでも聞いてみようと持ち帰ってみました。

イタリアにも鍵や靴を直してくれるお店があります。機械が同じなんでしょうか、鍵と靴の修理は、イタリアでも一緒に扱っています。家の近所にあるお店に行き、「これ、直せる?」と件のブーツを出してみました。ブーツを手に取った職人さんは、しばらく眺めていましたが、おもむろに「Vediamoヴェディアーモ」(ま、やってみましょう)と、引き受けてくれました。

そして、磨り減ってしまった部分を巨大なカッターで切り取り、そこに同じ形に切ったプラスチックを糊付けし、研磨。よく乾かした後、裏側と同じ色にペイントして、見た目的にはまったく問題なく、そして前よりも頑丈な感じのするカカトに作り直してくれたのでした。「スゴイ!完璧!」と言うと、誇らしそうに微笑む職人さん。値段もたったの5ユーロ(約900円)です。

どこにでもあるような街の修理屋さん。兄弟の職人さんの腕がいいのか、ブーツの修理を待っている間にも、次々近所の人たちがレスキューを求めて入ってきました。ベルトを4,5本持って「最近ダイエットに成功して、穴が足りなくなっちゃったのよ。」と言う女性。メジャーも使わず、同間隔に穴を開けていました。ネクタイ姿の初老の紳士が取り出したのは、女性用のヒールの靴。「うちの奥さんが、カカトが固くて歩くたびに近所に音が響き渡るのがヤダって言うんだよね。音以外は問題ない、履き心地のいい靴だからさ。」プラスチック製のカカトをはずして柔らかいゴム製に付け替えます。

どんなオーダーも神業のような早さでサクサクと仕上げていく見事な職人技は、見ている方も気持ちのいいものでした。イタリア人は怠け者なんて、誰が言ったんだか...とこんなときによく思います。決まりきったマニュアルだけでなく、独創的な発想と長年培った手わざを生かして、お客さんを満足させる仕事っぷり。その仕事、その道にかけてはまかせてくれ!という職人気質は、イタリアに住んでいると身近に感じる機会が多いものです。

家具はもちろん、洋服や帽子やそのほかいろいろ。たいていのことにその筋の専門家(職人さん)がいて、修理、相談に乗ってくれます。新しいものも結構ですが、古くても愛着のあるものを、直したりリフォームしながら使い続ける。それは、物を大切にするエコ的な発想はもとより、自分仕様にカスタマイズする感覚。お気に入りのものに囲まれた、心地いい暮らしを支えてくれる職人さんの存在は、イタリアでは偉大なのです。

ワンポイントイタリア語講座

意味: ま、ちょっとやってみましょう

非常に良く使われる日常語のひとつ。Vedere(ヴェデーレ)「見る」の一人称複数形ですが、言葉そのままに「見よう」と言う意味だけではなく、「どうしようか?どうなるかな?」と判断をちょっと迷うときに、「まあ、ちょっと様子を見てみよう」といった意味合いで使われます。一緒に状況を静観して後で判断しよう。といった感じでしょうか。