イタリア 万歳

キリスト教の本場イタリアのクリスマス。
飾りやプレゼントも日本とはちょっと趣きが違います。
(text & photo by 岩田砂和子)

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クリスマスはイタリア語でナターレ。キリスト生誕を祝うナターレは、キリスト教最大のイベント。キリスト教総本山バチカン市国があるイタリアでは、一年のうちで最も重要なイベントになります。12月に入れば、駅や大きな広場に巨大なAlbero di Nataleアルベロ・ディ・ナターレ(クリスマスツリー)が飾られ、街路には華やかなイルミネーションが灯り、街全体はナターレムード一色に。高層ビル群にきらめくネオンのような派手さはありませんが、石畳の街並みを照らし出すイルミネーションは荘厳で美しく、街中がナターレの悦びに満ち溢れたような独特の雰囲気に染まります。

イタリアでは、ナターレの飾りつけにクリスマスツリーも然ることながら、Presepioプレセピオが一般的。プレセピオとは、「キリスト生誕シーン」を模った模型で、厩の模型の中に、カゴに入った生まれたばかりのキリストや驚くマリア様、喜ぶ天使たち、厩を取り囲む羊や馬など、いわゆる「フィギュア」を並べたもの。手のひらサイズから、実際の人間より大きなフィギュアが並ぶ壮大なものまで、大きさはさまざまですが、出演者と並び順にはある程度決まりがあり、まるでお雛様のような感じの置物。イタリア最大の教会サン・ピエトロ大聖堂前の広場をはじめ、主に各教会に飾られますが、イタリアでも南に行けば、各家庭でも飾る家も多く残っています。

伝統の飾りプレセピオ。本場はナポリと言われます。ナポリの下町には、何代も続く老舗のプレセピオ工房が並んでいることで有名な通り「サン・グレゴリオ・アルメーノ通り」があります。厩の背景にまでこだわり、裏山に滝が流れたり星が瞬いたりと楽しい仕掛けのあるものなど、職人さんが趣向を凝らして作るプレセピオが展示販売される通りは、12月中、プレセピオグッズを買う人でごった返し、年末のアメ横さながらの趣になります。

プレセピオを飾り、パンドーロやパネットーネなどのナターレ伝統菓子を食べ、ミサに参加するイタリアのナターレは、恋人たちのためのロマンチックなイベントというよりも、キリストの生誕を祝う正式な宗教行事。基本的には家族と過ごすものとなります。普段は別々に住んでいてなかなか会えないマンマの元に帰り、手作り料理を囲んで家族一緒にお祝いしたり、イタリア各地から親戚一堂が集まって、盛大なパーティを開いたり。家族がすぐに会える場所にいなければ、必ずどこか…恋人や友達の家族メンバーに組み込まれ、賑やかなナターレを過ごすことになります。恋人がいるいないに関係なく、「一人で寂しいナターレなんてとんでもない!」というのがイタリアのナターレなのです 。

クリスマスイブの高級ホテルやレストランの豪華なディナーや高価なプレゼントはない代わり、この時期会う人全員にプレゼントを配るのもイタリアのナターレ。本や手袋などのちょっとしたもので十分なのですが、数を揃えるのが大変。マンマにパパにノンナ(おばあちゃん)にノンノ(おじいちゃん)。それから、ジーオ(おじさん)やジーア(おばさん)、いとこやいとこの婚約者や…ああ、そうだ、きっとあの人も来るかもしれないから!と、会う予定の人たち分をあれこれ選ぶのはなかなか楽しいひと時でもあります。親しい人やお世話になった人に、日頃の感謝をこめて。ナターレのプレゼントは、小さなお歳暮のようなものかもしれません。今年のクリスマスには、いつも近くにいるあの人に、ちょっとした気持ちをこめてイタリア流ナターレのプレゼント…なんていかがでしょう?

どうぞ皆さんにとって素敵なクリスマスが訪れますように! Vi auguro un buon Natale!

ワンポイントイタリア語講座

意味: クリスマスは家族と、大晦日はお好きな人と

イタリアの年末年始を現すことわざです。クリスマスには家族と過ごし、大晦日からお正月にかけて(カポダンノ)は、友達や恋人などお好きな人と過ごすのが、イタリアの年末年始。日本とはなんだか逆ですね。