イタリア 万歳

ゆったりとしたイタリア的時間を作る、
夕食前の小さな習慣・アペリティーボ。
(text & photo by 岩田砂和子)

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イタリアの習慣で私が好きなもののひとつに「Aperitivo アペリティーボ」があります。いわゆる食前酒のことですが、ラテン文化圏では古くから馴染みのある伝統的習慣のひとつ。本場イタリアでも、日常の暮らしの中にしっかりと組み込まれています。そしてそこには、人生を謳歌するラテン人らしい粋な楽しみ方があります。

夕食が20~21時頃から始まるイタリアでは、アペリティーボタイムはだいたい18~19時頃。
一日の仕事を終えたら、まずはバールで軽く乾杯。ビールやプロセッコ(ローマでアペリティーボによく飲まれるスプマンテの種類)、カンパリなどがレギュラーメニューです。「とりあえず、ビール!お疲れ様!」と似た感覚ですが、日本とだいぶ違うのはそのまま長々と酔っ払うまで飲み続けないところ。ホントに軽く1杯だけ飲んだら家路についたり、もしくはレストランに向かったり。レストランでメニューを決めながらアペリティーボをすることもありますが、バールを経由して軽く飲んで一息ついてから食事に向かうのが本場流スタイルです。

ローマ人の友人に言わせると「アペリティーボで、昼間の仕事の頭からプライベート用に切り替えるんだ。夕食は、仕事抜きで楽しみたいからね。」アペリティーボには、夕食をより楽しむために気持ちをほぐす役割もあるわけ。暑い南イタリアでは、家に戻ってシャワーを浴びてさっぱりしてから、わざわざ行きつけのバールに出かけることもあります。夕食の時間まで、そこでばったり会う知人や友人たちと軽く飲みながらおしゃべり。夕食には、相当リラックスした気分で臨めることでしょう。

ところで、ここ数年ミラノで始まった「ハッピー・アワー」なるものがローマでも定着してきています。「ハッピー・アワー」とは、アペリティーボの時間帯にバールやカフェ、ラウンジなどで、グラス1杯の料金でおつまみが盛りだくさんに食べられるお得なシステムのこと。おつまみと言ってもたいていはブッフェスタイルの食べ放題で、オリーブやナッツ類を始め、ミニ・パニーノやサラダ、パスタやフリットまでが、ずらりとカウンターに並びます。お店によっては盛り合わせにしてテーブルまで運んでくれるところもありますが、いずれにしても夕食にもなる程のボリュームがあるので、発祥地ミラノでは、会社帰りに寄ってそのまま軽い夕食にしてしまうのが近頃のトレンド。ローマでは「なんだかちゃんと食べた気がしない。」と、「ハッピーアワー」の後にもきっちりと夕食を食べる人がまだ多いんですが。

アペリティーボは、こんな風に外で会社帰りのクールダウン、待ちあわせや夕食を兼ねた楽しみ方をする以外、家にいるときも欠かせません。夕食の準備をする前に、まずはアペリティーボ。買い置きしておいたオリーブやチーズをつまみながら、グラスを片手に夕食を作ります。家族もキッチンに集まりワイワイおしゃべりも始まって、夕食作りも楽しい時間になります。単なるつまみ食い…と言えばそれまでですが、ま、それもアペリティーボと名前がつけば、なんだか楽しいかな。ということで。

ワンポイントイタリア語講座

Ci vediamo al bar per un aperitivo!(チ・ヴェディアーモ・アル・パール・ウン・アペリティーボ)

意味:バールで待ち合わせね。アペリティーボしよう。

待ち合わせにもアペリティーボはよく使われます。そのまま夕食に向かうのもいいですが、仕事帰りに友達と小一時間ほど会っておしゃべりしたいけど、お茶もなんとなく合わない時間帯だし、夕食はでゆっくり食べたいしな~なんて気分のときにもピッタリくるのがアペリティーボ。日本にも定着すればいいのにな、と思う便利な習慣です。